君の世界からわたしが消えても。

 聞いてみたけど、一向に口を開く様子が見られない。


 ……言いたくないってこと?


 それとも、わたしには言えないことなのかな。


 こうなってしまった時のイチはとことん口を割らないから、仕方ない。


 気になるけど、気にしない。


「そういえば、カナの様子見に行ったんでしょ? どうだった……?」


「なんで葉月がそれ知ってんだ」


「今日の朝、イチのお母さんとうちのお母さんが玄関で話してるのを聞いたから」


 ふーんと興味なさそうに言うイチ。


 ……わたしはカナの様子を聞いたんだけど。


 さっきから全然会話のキャッチボールができない。


 むっとしてイチの方を睨むと、目だけでちらりとわたしの表情を窺った彼は、口をへの字に結んだ。


「言わなくてもわかるだろ」


 つっけんどんな口調からは、悲しみが漏れ出ていることに気が付いた。


「そっか、そうだよね……」


 ……聞くべきじゃなかったな。


 ちょっと落ち込んで、それ以上余計なことを言わないようにと口をつぐんだ。


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