君の世界からわたしが消えても。

 ただでさえ見た目怖いんだから、舌打ちなんてしてたらモテなくなっちゃうよ。


 ……なんて思ったけど、これも心の中だけにとどめておこう。


「で、なにか用事があったんでしょ? どうしたの?」


 イチのひどい対応にも、口数の少なさにももう慣れてる。


 気を取り直して聞き直せば、イチは言いづらそうに口を開いた。


「……今日誕生日会やるから、早めに帰って来いって言ってた。お前、おふくろさんに行き先言わずに出てきただろ。あんまり心配させんな」


「えっ。あ、そうなんだ? わかったよ。なんか、わざわざごめん」


 わたしとイチ、それからカナの家は家族ぐるみで仲がいいから、毎年誕生日はみんなで集まってたんだよね。


 イチはどうやら、それを知らせに来てくれたらしい。


 そういうことなら、もっと早く言ってくれればいいのにね。


 でも、そっか。


 今年はちゃんと誕生日会やるんだなあ……。


 去年の誕生日は、ミヅキの死から誰も立ち直れていなかったし、みんなで集まってお祝いするなんて雰囲気じゃなかったから。


 カナも眠ったまま目覚めなかったし。


 ……それは、今年も同じことだけど。

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