君の世界からわたしが消えても。
「……お前、またここにいたんだな」
「あ、イチ……」
いつの間に来たんだろう。
足音、聞こえなかった。
隣に並んで町を見下ろす男の子は、わたしが通う高校のものと同じデザインのブレザーをはおり、スラックスをきっちりと履きこなしている。
彼は、小学校の時から仲の良い男友達だ。
そして、大切な人のうちのひとりでもある。
「おふくろさん、お前の帰りが遅いから心配してる」
「そっか、わざわざごめんね。探したでしょ」
ふふ、と笑い、悪びれなく言ってみた。
だって、イチはわたしがここにいること、最初からわかっていたはず。
事あるごとにここに来る癖を、知らないわけがないから。
イチの顔を覗き込んで見てみると、口を一文字に結んだいつもの顔。
「探してねーよ」
こっちも見ずに前を見据えたまま、イチはそう言った。
その答えも、やっぱり予想通り。
また笑えば、無表情だった彼はわたしの方を怪訝そうに見て、それから手を伸ばしてきた。