君の世界からわたしが消えても。

 頭に触れた、大きなイチの手。


 ゴツゴツと骨ばっていて、温かい。


 その温度に安心して目を閉じようとした時。


「……っ!? ちょ、イチ!?」


 その手に、頭をわしゃわしゃと撫で回された。


 何度制止の言葉を言っても、その手が止まることはない。


 でもね、ちゃんとわかってるんだよ。


 これがイチなりの、励ましだってこと。


 不器用で照れ屋な彼の、精一杯の表現なんだってこと。


 大人しく身を任せてじっとしていれば、だんだんと動きが緩まる手。


 わたしより15センチ以上背の高いイチを見上げると、真っ直ぐな視線に射抜かれた。


 イチがなにを思っているのかわかる。


 だからこそ、わたしは嘘を吐く。


 もう、心配されるのは嫌だから。


「イチ。わたしは大丈夫だよ」


「…………」


 乱れた長い髪の毛を手ぐしで軽く直し、笑みを浮かべながらそう言えば、わたしの言葉を信じていないらしいイチは、顔を歪めた。


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