君の世界からわたしが消えても。
「カナ!」
勢いよく開け放ったドアの向こう。
目に飛び込んできたのは、体を起こしベッドに座るカナの姿だった。
昨日まで冷たい空気だと感じていた病室は、もうない。
長い間、眠りに落ちていたカナ。
その彼が、驚いた表情でこっちを見た。
カナの目に、わたしが映る。
じわりと涙がわいてきて、視野が狭くなった。
歪む視界の中、ふわりと笑うカナを見た。
……カナが本当に生きて動いていることを目の当たりにしたわたしには、周りの声なんか聞こえていなかった。
カナのお母さんの表情や、後ろにいるイチの顔が強張っていることにも、気付けなかった。
カナが目を覚ましたこと、それだけが嬉しくて。
「……やっと、知ってる人に会えた」
小さくそう呟いたカナの声も、耳には届かなかった。
―――わたしは、まだ知らない。
この時カナになにが起こっていたのか。
わたしたちに、なにが起こるのか。
なにも知らなかった。
現実に傷つくのは、突然の選択を迫られることになるのは、僅か数秒後。