君の世界からわたしが消えても。
その時、肩にぽんと温かいなにかが乗っかった。
重みを感じてそこを見ると、しわしわの手。
カナと話すのも、立っているのも、本当は限界で泣きそうだった。
心がついていかなくて。
だけど、今度はその優しい手の温度に安心して、泣きそうになった。
肩から温もりが離れ、急に寂しさを感じた。
心のよりどころがなくなったように思えて顔を俯かせると、急に視界が遮られた。
びっくりして少し顔を上げて見てみると、さっきわたしを落ち着かせてくれたであろう人が、目の前に立ってくれていた。
わたしを隠すように守ってくれているその背中は、イチのものより遥かに狭くて頼りない。
だけど、真っ白な白衣を身に着けたその人の存在は、今のわたしにとっては命綱のように感じられた。
「夏目くんの担当医をしている清水(しみず)です。……少しお時間いただけますかな?」
丁寧な物言いの先生は、立ち姿からして60歳前後のおじいちゃん。
その人に、病室から出るようにと促された。
カナのお母さんも、慌てた様子で病室から廊下へと出てくる。
「夏目くん。少しだけ待っていてもらっていいかな?」
「……はい」
小さなカナの返事を最後に、わたしたちは病室を出た。