君の世界からわたしが消えても。
……暗い部屋は、これから良くない話をされるのではないかということを連想させる。
机の上に置かれた時計、秒針が進む些細な音が気になって仕方ない。
手のひらの中にあるペットボトルを思わず強く握りしめ、それがへこむ音が狭い部屋にこだました。
「……夏目くんのことなんですけどねえ」
ふいに話し出した先生の声に、肩が跳ねる。
思っていることはカナのお母さんもイチも同じようで、いつもより表情が硬い。
そんなわたしたちを見た先生は、気難しそうな顔をしたまま言葉を続けた。
「非常に申し上げにくいことなのですが、夏目くんの記憶は欠落しているようです」
「……っ!」
息を飲む音が聞こえ、空気が一気に重くなったのがわかった。
もしかしたらと思っていたけど、改めて聞かされるとその響きはとても重かった。