君の世界からわたしが消えても。

 わたしたちの様子を見たおじいちゃん先生はほっと息をつき、気を取り直すように姿勢を正した。


 まだ目の端に残る涙の粒を拭い、わたしは拳を握っておじいちゃん先生が話し出すのを待つ。


「……はづきちゃん、きみがとっさに言った一言には、感謝しているよ」


 おかげで夏目くんが取り乱さずに済んだ、と静かな声で先生は言った。


 どういうことなのかわからず首を傾げていると、先生はまず謝罪を述べ、はじめからゆっくりと、今のカナの状態と起こったことについて、詳しく話してくれた。


 ――今日の13時45分、巡回をしていた看護師さんが、カナの意識が戻っていることに気が付いたらしい。


 看護師さんはすぐにおじいちゃん先生を呼び、カナに異常が起きていないかを調べた。


 ここがどこか、自分が誰なのか、ここにいる理由がわかるか。


 いくつかの質問をすると、カナは全てにはっきりと答えたそうだ。


 夏目奏汰だと名乗り、ここがどこかはわからないけど事故に遭ったのは覚えていると言ったらしい。

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