君の世界からわたしが消えても。

 長い間眠り続けていたせいで声帯は弱り、ゆっくりとしか話せないという。


 脳波にも異常がなかった。


 植物状態になって目を覚ました人は、稀に記憶を失うことがあるらしい。


 手術の時にする麻酔でも、そういう症状がでることもあるという。


 幸運なことに、カナには異常が見当たらなかった。


 質問の答えからしても記憶を失っている可能性や問題点は、どこにもなかったみたいだ。


 現に、その看護師さんがカナに、「これから親御さんを呼んであげるからね」と言ったところ、それが誰のことを言っているかわかるかのように、こくりと頷いたそうなのだ。


 それに安心した看護師さんは、すぐさまカナのお母さんに連絡をするためにナースステーションへ戻った。


 おじいちゃん先生も急患が入り、その場を離れたそうだ。


 13時55分、カナのお母さんのもとに、カナが目覚めたという知らせが届いた。


 その5分後、わたしたちのもとにも、それが伝わった。

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