君の世界からわたしが消えても。
そうすることで、両者の心を傷つけてしまうかもしれないリスクが、格段に減るのだそうだ。
家族や知人に会わせる前に、患者がどんな状態でいるのかを把握し、あらかじめそれを知らせ、あくまで他人である医師がそれを伝えることで、患者本人に会う前の親族の心にゆとりを持たせることができる。
それは、患者が記憶喪失であると判断された場合の一番の処置なんだって。
それに、人間は常に予測不可能で、家族に会った患者がパニックを起こすかもしれないし、場合によっては暴れ出すこともある。
患者の顔色を窺い、これ以上はダメだというラインを見つけたら、止めることだってできる。
たとえば、患者が起きてから初めて対面したのが家族で、加えて患者は記憶喪失だとする。
その時、間違いなく両者は大きなショックを受けるだろう。
目覚めることを切に願い続けていたその患者が、自分を認識してくれなかったら。
患者も、自分の記憶がないこと自体に衝撃を受けるだろうし、目の前にいる知り合いだと名乗る見覚えのない人に泣き言を言われては、精神に負担をかけてしまう。
医師や看護師はともにいろいろな事態を想定し、それに合った迅速な対応をしなければならない。
そのことを考えると、カナが起きた時の状態は非常にリスクが低いことだったのだそうだ。
だけど、擦れ違いが起きてしまった。