君の世界からわたしが消えても。
「奏汰は、息子は……、私が誰なのかをわかっていないようでした」
いろいろな可能性について考え込んでいる中、カナのお母さんの消え入るような声が聞こえた。
「え……、カナはお母さんのこと、覚えてなかったんですか……?」
わたしの問いに、その細い肩を震わせた。
そんなこと、信じられない。
信じたくないよ。
だって、カナはミヅキのことは覚えてた。
産んでくれた親のことさえ覚えていないのに、それでもミヅキを覚えていたなんて、カナはどれだけミヅキのことを想っていたんだろう……。
そこで浮かんだ、ひとつの可能性。
もしかしたら、カナは……。
「そうかもしれないと、今考えていたところでした」
眉を寄せてそう返したおじいちゃん先生の言葉に、さらに重くなる部屋の空気。
数分前までは、カナが目覚めたことを喜んでいたのに、もうそうは思えない。
わたしたちは声を発することも忘れ、想像すらしていなかった状況に、ただ打ちひしがれた。
「夏目くんが一部の記憶を失っているのだと、これではっきりしました。そこで、これは可能性の一つなのですが……」
そう言ったおじいちゃん先生は心底気の毒そうな顔で、告げた。
「もしかしたら、彼は……」
先生がこれから話すことが、どうかわたしの想像していた現実と、違っていますように。
心の中でそう祈りながら、胸に過ぎる一抹の不安に、ただ怯えていることしかできなかった。