君の世界からわたしが消えても。
「そういえば、最初に来てた女の人と、美月と一緒にいた男は、もう帰ったのか?」
不思議そうな表情を浮かべ、たどたどしい口調でカナは言った。
病室の中には、カナとわたし、それからおじいちゃん先生がいるだけだ。
おじいちゃん先生の言いつけで、カナのお母さんとイチは病室の扉の外で待機している。
いろんなことが複雑に絡み合ってしまっているから、慎重になる必要があるんだって。
全てを忘れたわけじゃなく、改編された記憶を作り上げたカナの状態は、わたしが思うよりもずっと不安定なんだろう。
そして、嫌でもわかってしまった。
予想づけた残酷な現実に、着々と近づいていっているんだ、って。
……カナは、自分の母親のことも、長年一緒にいたイチのことさえ、わからないみたいだった。
それはきっと、わたしだって例外じゃないはず。
カナの中にいたわたしは、パンドラの箱に閉じ込められてしまっているんだと、薄々と感じ取った。