君の世界からわたしが消えても。

 カナの言葉を聞いて、泣きそうになった。


 だって、彼の本質は、なにも変わってなんかいなかった。


 カナは、カナのままだった。


 彼はわたしたちの中で一番頭が良くて、心配性で、困っている人を放っておけない性格だった。


 そして、誰よりも人の心の動きに敏感だった。


 ……カナはきっと、周りをよく見ていたんだね。


 そして、実感し、ちゃんと理解したんだと思う。


 自分の中の記憶がひどく抜け落ちていること、自分の記憶から消えてしまった友達が存在すること。


 忘れられる方もショックだけど、きっと忘れてしまったカナ自身も、相当ショックを受けていると思う。


 それでもカナは、イチを気遣った。


 イチに負けず劣らずの、強さと優しさだよね。

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