君の世界からわたしが消えても。

 それもそうだろうなあ、とは思う。


 だってカナ、スプーン握っておかゆ食べるのでさえ、つらそうだったもん。


 指先に力が入りにくいのか、お箸の持ち方もなんだか変。


 これも訓練と言ってしまえば訓練なんだけど、昨日起きたばかりのカナに、これはいくらなんでも無茶なんじゃないかと思ってしまう。


 しかも小さい豆で、おまけにつるつる。


 スプーンがあるなら、それ使って豆食べればいいとか思うでしょ?


 ……でもね、実は監視がいるんだ。


 カナの部屋は個室から大部屋に変わったんだけど、お部屋が一緒の太っちょのおじさんが実はお目付け役。


 看護師さんに頼まれて、カナがちゃんと箸で豆を食べるか見張ってるんだ。


 なんともまあ、徹底した管理だなと思う。


 いつもは口をぎゅっと結んでいるイチの強面も、豆を一粒もつまむことができないカナのおかげでマヌケ面だ。


 イチの顔は言うならば『豆と格闘してから10分以上経つのに、一粒も食えてないとか……』ということを心の中で思っていそうな呆れ顔。

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