君の隣で。
甘酸っぱい感情
桜の花びらも散り終えた頃、
私の中に浮かんでくるのは君だった。
恋は不思議なもので気付けば
自然と頭の中から
君は消えない存在となっていて
何気無い仕草一つで胸の鼓動が高鳴り、
君の事ばかり考えていたんだ。
君の席は私の斜め前、私は斜め後ろ。
斜め後ろに座っている私に
ふと、後ろから声が聞こえた。
「萌乃、おはよう。」
いつも通りの君の声で私はホッとする。
朝の挨拶があるのと無いのではやる気が
違うのは、何故なんだろう?
「おはよう、真也くん。」
理由なんて知る由も無く、
私はにっこり笑って挨拶を返した。
初めは、こんな風に挨拶から始まった
ただのクラスメイトだったんだ。
「今日英語のプリント提出だって」
何処か思い出したような顔をして
真也くんは呟いた。
(…そうだったっけ?)
授業をまともに受けた事の無い私に
課題がある事なんて分かるわけない。
私とは違って
真面目で成績優秀な真也くん。
私は〝あー〟とだけ言葉を濁した。
「高ニなんだし、しっかりな?」
まるで親や教師の様な言い草に
私はあからさまに頬を膨らませた。
そして細かい気遣いでさえも
ドキドキする自分にも
何処かイライラとした。
「…プリント見せてやるから、
授業ちゃんと受けろよ?」
私が無言で黙ったせいか言葉を続けた。
ぷいっとそっぽを向けた真也くんは
プリントを手渡すと自習を始める。
「ありがとう、真也くん」
常に優しくしてくれて細かい気遣いでさえ怠らない。
私の思考を遮る様にして教師の気怠い声が聞こえてきた。
高校二年生、新しいクラスでも一年と
何の変わりの無い授業は少し退屈で、
難しい事が多すぎる問題は手付かず。
授業が始まって早々に
私は机に突っ伏した。
まだクラスは楽しいというより
何だか緊張するし…
この先の不安は募るばかりだった。
皆はどう思ってるんだろう?
中学の時から憧れていた高校生活。
こんな感じだったっけ。
先生の落書程度の板書をゆっくり映してから窓の外を眺めた。
何の変哲もない雲一つ無い青空、
斜め前の君。
そして君はただのクラスメイト。
世間一般的に言う友達で。
私にはまだわからなかった。
胸がきゅんってなる理由だとか
君の事ばかり考えてしまう事だとか
知る由もなかったんだ。