美女と野獣なふたり。
野獣は怖いですか?
流二が瑠里に告白した時付き合う条件として出されたのは
"会社から自宅まで毎日送り迎えすること。"
だった。
流二は、その日から瑠里を毎日部屋の前まで送ってから帰宅することが日課になった。
勿論、流二は送り迎えをするだけだ。
付き合って2ヶ月経った今現在も、瑠里の部屋の中まで入ったことは一度もなかった。
今日も、流二は瑠里を助手席に乗せてから車を出す。
「なぁ、今日は何処かでご飯食べに行くか。」
流二の誘いに瑠里は素っ気なく「分かった。」とだけ告げる。
言葉は素っ気ないが、声は少しだけ嬉しそうだ。
最近ようやく流二にも瑠里の感情が掴めるようになってきたところである。
流二は、瑠里が彼のことなど全く眼中に無いことは分かっていた。
瑠里がストーカー被害にあった経験があることも。
そして、瑠里は告白してきた男性にいつも言うのだ。
「私を毎日会社から家まで送ってくれる?」
会社では、有名な話だった。
彼女が入社してから、間もなくして付き合ったのが、社内1お喋り男だったからだ。
その男は、瑠里の条件を1ヶ月続けて限界が来たそうだ。
送り迎えくらいしてやればいいじゃないかと流二は思ったが、どうやら理由はそこではないらしかった。
瑠里が部屋まで送ってくれた男を部屋の中まで入れることはなかった。
車の中でも特に会話は無い。
デートどころか手さえも繋いでもらえない。
挙句の果てに、キスしようとしたら頬を思いっきり打たれたらしい。
まぁ、男側からしたら毎日送ってやってるんだからそれなりのことは許してもらいたいと思うのは仕方ないことかもしれない。
だが、流二はそんな下心は無いとは言いきれないもののそれなりの覚悟をして瑠里に告白したのだ。
まだ2ヶ月しか経っていない。
流二が恐れているのは瑠里に男として恐怖の対象になることだ。
瑠里はストーカー体験でかなり怖い思いをしている。
そんな彼女が彼氏をつくり男と2人でいる時間はどんな心境なんだろうかと流二は思った。
****
瑠里の護衛生活が3ヶ月を経過した頃、流二は初めて瑠里の部屋に入った。
流二が夕食に誘うと、ルリが「私が作る」と言ったのだ。
流二は最初、断られたのかと思い、いつものように瑠里を部屋の前まで送った。
だが、瑠里が部屋のカギを開けるとドアを開けたまま流二を見上げる。
流二は、頭に?マークを浮かべて瑠里を見つめ返すと、
「作るって言ったでしょ?」
その言葉に流二もやっと理解した。
まさか、瑠里の手料理が食べられる日が来るとは思ってもみなかったため、今のは瑠里に失礼な態度をとってしまっていたのではないかと内心ヒヤヒヤする。
「おじゃまします。」
流二はゆっくりと足を踏み入れたのだった。
****
瑠里の手料理は想像以上に美味しかった。
出来ることなら、これから毎日瑠里が作ってくれた夕食を一緒に食べれたらなぁ。と流二は想いを巡らせる。
久しぶりに人が作ってくれた夕食は流二の心を穏やかに優しく包むような感覚にさせたのだった。
後片付けを手伝い終わると、流二は鞄と上着を持って帰る準備を始める。
「帰るの?」
瑠里は珍しく寂しそうな様子を見せた。
流二は瑠里の様子にグラりと帰る決心が揺らぐ。
瑠里が居てくれても良いと言ってくれるのなら流二は勿論帰りたくはない。
だが、今帰らないと流二は自分を抑えられる自信も無かった。
今も、瑠里を抱き締めたい衝動に駆られているのだ。
瑠里に嫌われる前にこの部屋から出なければ、流二は確実に瑠里を自分の腕の中に引き寄せるだろう。
「また、明日。お休み。」
流二はそう言うと瑠里の部屋を出ていったのだった。
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