【完】クールな君に胸キュン中!
「桐谷く……っ」
呼びかけても、もうすでに歩き始めてしまっている彼の背中に、手を伸ばしても届かなくて。
どうしてこうも、うまくいかないんだろう?
遠ざかっちゃうんだろう……?
あたし、桐谷くんのこと何も知らない。
何も、わかってあげられないよ。
自分の無力さに、苛立ちを覚えて肩を落としてしまう。
「ごめん奈乃ちゃん。気まずい雰囲気にしちゃって」
すると松岡くんが困ったような笑みを浮かべた。
あたしは即座に首を振るが、彼の伏せめがちな瞳があがることはない。
「あいつ、本当はバスケしたいはずなんだ。だけどできないんだよ。過去にとらわれてて」
「……えっ?」
「いい加減、解放してやりたいのになぁ……」
〝何から〟っていうのは、あえて聞かなかった。
聞けなかった。
あたしからは踏み込んではいけない領域な気がした。