夢見るきみへ、愛を込めて。
この家に足を踏み入れるのはお母さんの七回忌が最後だったから、4年ぶりになる。
いくら淘汰された存在とはいえ、腐っても私は元当主の孫娘であり、現当主の姪であることに違いない。それが数年ぶりに姿を現したとなれば、鬱屈とした空気を晴らす恰好の餌だろう。
よくもまあのこのこと来れるわね、なんて捻りのない陰口が聞こえてきそう。
廊下の先から感じる視線に顔を向けることなく。ひそひそと耳殻を撫でる噂話は徹底的に無視した。親族になじられるならいざ知らず、血縁関係もない他人にまで非難されるいわれはない。
しかし何年経とうと過去は塗り替えられないし、一度芽生えた嫌悪感というものは、なかなか拭い落とせないのだろう。
「本日は何用で?」
端的に、何をしに来たと嫌みったらしく探りを入れてきたのは、私が幼い頃から本家に仕えている古参の使用人だった。左右に事情を知っていそうな使用人を従えてまで、ご苦労なことだ。
まるで礼儀を欠いている微苦笑を一瞥し、前を見据える。
「司叔父様に招いていただいたので、あがらせていただきました」
「そのようですねえ。まさかいらっしゃるとは知らず、なんのお構いもできませんで。申し訳ないですわ」
それは帰り際にかけるべき言葉ではないのか。
「この師走の忙しい時期に立ち寄られた理由は?」
好奇心に満ちた嗜虐的な物言いに、溜息が出そうになる。
先陣切って何をしに来たかと思えばそんなこと。好きなように話を盛ればいいものを、彼女はただ見かけただけでは充足されないらしい。
まともに取り合う気も失せて、横面を刺す視線の元へ顔を向けた。
「すぐ帰りますので。あなた方の手を煩わせるほどのことではないでしょう?」
立ち寄ったことに深い意味はなく、ましてや一介の使用人に口を挟まれる覚えはないと言ったつもりだったが、彼女は承知の上で声をかけてきていた。
「ああ、いえね。分家の皆様も数名いらっしゃってますから、騒ぎになる前にお伝えせねばと思いまして。ほら……寿命が縮むとか、不吉なことも聞きますし」
“私”には何をしても、咎められることはない。そういう、蔑むような笑顔で私を見ていた。