夢見るきみへ、愛を込めて。
「勘違いさせといたほうが、何かと都合がいいじゃないですか」
私が本家に出戻る気だとか、乗っ取る気だとか。まさか私の力に頼ることにしたのかとか、司さんは利用されているんじゃないかとか。それとも会社の経営不振があるのかもとか、親族の誰かが亡くなる夢を見たのではとか。本家の中枢にいない者にとって、予想は尽きないはず。
私が立ち寄ったことに深い意味などないけれど、これで私への嫌悪感が増し、司さんへの後押しが僅かでも強まるなら、願ってもない話だった。
あとはうまくやってくれたらいい。それ以上言及しなくなった私に、司さんは有難がるわけでも、諭すわけでもなく。ただ哀しそうに、あるがままの私へ微笑むだけだった。
「……ああいう人ばかりじゃないって、分かってますよ」
「うん」と司さんは短く答えてくれたけれど、それが賛同ではないということも、ちゃんと分かっていた。
司さんにはきっと、私を戻らせてあげたいという気持ちがある。そうでなければお父さんの連絡先など残しているはずがないし、こうして私を連れて帰ったりしない。でも、私もお父さんもこの家に戻りたいと望んでいないから、慮ってくれているのだろう。
自分の考えを最優先できない人。波風を立てないように、相手の平穏を願える人。そんな人が、私を捜してまで頼みにやって来た日。すげなく追い返したことを悔やんでいるから、私はのこのこついてきてしまったのだと思う。
「うわ……」
思わず感嘆の声を上げた場所は、幼い頃入り浸っていた離れの大広間。その縁側でだった。
相変わらず冬は雪吊り以外のことを庭師もしないのだろう。目の前に広がる庭園は雪に覆われ、足跡もなく、ただただ清廉な美しい白が広がっていた。
本家の周りには中庭や藤棚もあって、四季折々の景色を見せてくれたけれど、私は冬の、どこか寂しいこの景色がいちばん好きだった。彩度の低い、ほとんどモノトーンの風物詩。いくらでも眺めていられる。