夢見るきみへ、愛を込めて。
「心配していたよ。灯はしっかり者だけど、身体が追いつかないんじゃないかって。そのうち倒れやしないかと、ひやひやしてるみたいだった」
眉をハの字にした司さんが代弁するように言うから、やめてほしくて目を逸らした。
なんと言われようと私はひとりで暮らしていける。倒れて迷惑かけたりしないし、ぶり返した胸が締め付けられるような痛みだって我慢できる。
「無関心な人だと思ってた?」
悟られまいとしていた動揺をいとも簡単に拾いあげられ、続く言葉に耳を塞ぎたかった。
「口下手で、行動下手なだけだよ。感情を表に出すのが不得手で、だけど心の奥ではいつも相手のために葛藤してるって。不器用で、優しい人だって。カスミは言ってた」
「……フォローにしか聞こえませんよ」
「そうだね。僕も当時はそんな風に思っていたけど、今ならフォローする側に回れる。そうさせるだけのものを持っている人だから」
知ってるよ。身分違いだろうがお母さんとお父さんが互いに想い合っていたことくらい。大学生の娘がいようと、小百合さんが結婚に踏み切れるほどの魅力がお父さんにはあるんだろうってことも。わざわざ教えてくれなくたって、考えれば分かる。
「それでも、私はやっぱり、お父さんたちとは離れて暮らすべきだと思うし、間違ってないと思ってます」
司さんがお父さんとどんな話をしてフォローを入れておこうと思ったかは知らないけれど、私ひとりがいないだけの些末なことだ。
お父さんには小百合さんとユリカがいる。それでいいじゃないか。守るべき存在が増えて、幸せだと思える場所ができたなら。余所見していないで育んでくれたらいい。
「……変わらないね」
ぽつりとこぼした司さんの言葉を反芻する。目を閉じても、浮かんだ答えはいつもと同じ。
「変わりませんよ。今さら」
自嘲気味に笑うと、司さんはそれ以上続けることはなかった。私は数秒か数十秒、庭園を目に焼き付けたあと縁側を離れ座敷へ戻る。