夢見るきみへ、愛を込めて。
「司さんは? よく帰られるんですか。この家に」
たまには堕落的な休日を過ごしても問題ない私と違って、司さんは忙しいのだ。せっかくこうして話す時間ができたのだから、姪と伯父らしく残りの時間を過ごしたかった。
「うん。ここには定期的に顔は出さないといけないし。だから今は本家と会社と自宅を行ったり来たりしてるかな」
本来であれば跡継ぎの司さんは本家に住まう決まりなのだけれど、会社が遠くて不便だと、本家を出ることになった私とお父さんを追いかけるようにして引っ越したはずだ。
私が今住んでいるマンションは3番目の家だから、11歳の後半から16歳までは市街地の一軒家を借りていた。そこから自転車で10分くらいの場所に司さんは家を建てて、おそらく今もそこを自宅としているのだろう。
私はいっくんがいなくなってからとんと遊びに行かなくなってしまったし、元からいっくんの部屋に入り浸っていたから、全くと言っていいほど司さんの再婚相手とその娘と顔を合わせた覚えがない。
「相変わらず忙しくしてるんですか」
「まあね。むしろ今は仕事があってありがたい」
気を紛らわせられるからと言葉の裏を読んで、聞こうか聞くまいか悩んだ。
「……奥さんは」
「うん。元気、とは言い難いけどね。支えてくれる」
気を遣わせてしまった。やっぱり聞くんじゃなかった。司さんの笑みに返す言葉を見つけられずにいると、「灯は?」と時間が息を吹き返す。
「僕の可愛い姪は、元気にしてた?」
目の前にいるのに、別の人に問うような。それは“私”を捜して知った情報を、あの夜を、なかったことにするみたいに。叔父としてできる精一杯の気遣いと、謝罪だと思った。