夢見るきみへ、愛を込めて。

「私のことは、どうでもいいです」

「好きな人とかいないの?」

「いませんよ!」

突然の質問にびっくりして声を荒げる。司さんは目を伏せ、頬を緩めていた。

分かっているじゃないか。そんなのいるわけないって。

「灯は、いぶきが初恋だもんね」

やめてほしい。そんな、過去のように言うのは。

「今も、いぶきがいちばんなんだって伝わったよ」


ざわりと黒い靄が背後から迫ってくる。本能的に司さんが言いたかったことはこれだと思った。家族の思い出話も、お父さんの気苦労も、ただの布石。


「でもね、」

「やめて」


否定しないで。悔いても、罪悪感に襲われても、巻き返さないと決めたんだ。


「……ダメだと言いたいわけじゃないよ。従ってほしいわけでもない。だけど僕らは、親だから。あれこれ世話を焼きたくなるし、もういいって投げやりになっても、本当には捨てられない」


言葉を返す代わりに、ぎゅっと拳を握った。

捨てられたっていいんだよ、私は。それでお父さんが幸せになるのなら。汚いものとして。消したいものとして。関わりたくないものとして。なんだっていいから、他の人と同じように見限ってくれたらいいと思ってる。

伝わっているはずなんだ。絶対。だからお父さんも司さんも放っておいてくれた。

だけど心配だとか、捨てられないとか、改まって言われたら、また考えてしまう。私は間違っていたんじゃないかって。もっと他の道があるんじゃないかって。


「灯はひとりでも暮らしていけるって僕も思うよ。生活能力云々の話だけじゃなくて、いぶきが今も支えになっているから。……でもね、だからって、ひとりでいいってことにはならないよ」


叱るように言葉尻を強めた司さんは、息が詰まった私へたたみかける。
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