夢見るきみへ、愛を込めて。
「言ってたじゃないか。あんな人ばかりじゃないと分かってるって。そう思えるのは、いぶきのおかげだけじゃないはずだ。心配してくれる家族と、何年も付き合ってる友達が、灯にはいるでしょう。その人達は、灯が困った時に手を貸してくれる人だ。どれだけ灯が迷惑をかけまいとしても、助けてほしい時に手を伸ばせる場所にいてくれる人だ」
そうだとしても私は、いっくんとの思い出さえあればいいから、何も与えようとしないでほしくて。私がいると、また家族を壊してしまうから、仲間に入れようとしないでほしかった。
「そんなこと言われても、困る……」
堂々巡りするばかりだもの。間違っているのかもしれないと思ったって、正せないのなら意味がない。
「だって、私は、いっくんのことしか信じられない」
どれだけ優しさを感じても、何度手を差し伸べられても、私は受け取れない。根っこは曲げられない。今も、譲れなくて傷付けるだけの自分が嫌で堪らない。
私がこんな風にいられるのは、お父さんが無関心だったからじゃない。いつだって、私の気持ちを優先してくれる人たちがいたからだ。いっくんが全てだと言うなら。日々を過ごす活力になるなら。好きにしなさいと見守られてきたからだ。
「いぶきのことを忘れてほしいなんて言わないよ。だけど、ずるい言い方だけど、ほんの少しでいいから、灯の周りに誰がいるのか見てほしいって。どうしてそばにいてくれるのか考えてほしいって。いぶきの父親としては思ってしまう」
もう、いっくんはいないのだから。現実を見ろ、と。言い換えればそういうことだった。
余計なお世話だと、今までどおり放っておいてと言うことは簡単だけれど、司さんだからこそ聞く耳を持てたのも事実で。何より、今度ばかりは蔑ろにしてはいけないと思った。
眉間のシワと拳を解いて、顔を上げる。あの夜、思い浮かぶ限りの言葉で責め立て、拒絶した私が見せられる、精一杯の変化だった。