夢見るきみへ、愛を込めて。

「……ありがとう。いぶきを、ずっと想ってくれて。どんな形でも、それは本当に嬉しいんだよ」


きっと司さんはお父さんの気持ちも考えて、多すぎず、少なすぎず、言葉を紡いでいく。


「いぶきも灯を大事にしてた。宝物のように、肌身離さず身に付けて。守っていたし、守ってもらっていたんだろうね」


縁側へ向いた司さんの目が懐かしむように細められ、私に戻ってくる。


「お守りみたいなもの。灯にとってのいぶきも、そんな風になってくれたらいいと思うよ」


柔らかな微笑みが、身体中に伸し掛かる重力を取り払ってくれるようだった。


そのままでいていいと言われたわけじゃない。私は誰の意見も求めていなかったし、耳にしたところで左右される気もなかった。それでも、頭ごなしに否定されなかったことが涙を誘った。


世界は私にちっとも優しくないのに、人はこんなにも優しくて嫌になる。


私はいっくんを忘れなくていい。想い続けたっていい。だけど僅かでも、想う形を変えなくちゃ。せめてお父さんや司さんを心配させないくらい。いっくんがいなくなってからの3年間。私は、人の想いの上で、生かされていただけなのだから。


踏みにじりたくないと思うのなら、認めなければ。少しづつ自分が変わっていること。お父さんや司さんのことも、今までとは別の方法で、大事にしたいと思ったこと。


そうしてふたりを安心させることができたなら、きっともっと、穏やかに眠れるんじゃないのかな。


――ねえ。いっくん。

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