夢見るきみへ、愛を込めて。


互いに歯車がついているとするなら、私たちは今、絶対に噛み合っていない。

バイトを終え寄り道せずに帰ってきたというのに、ゴミ捨て場の前に話したい相手はいなかった。

今日で3日目だ。忙しいんだろうか。ゴミ捨て場を横目に、立ち止まっていた足を前に出す。

約束をしているわけじゃない。またね、ってそれだけ。彼も毎日来ると言ったわけじゃないのだから、気にするだけ損というもの。そのうちひょこりと現れるだろう。いつものように、『おかえり』って。

だけど、自動ドアが開いても引き止める声は聞こえなくて、振り返ってもそこに笑顔はなくて、なんだか腹が立った。

まだ3日目で、あてもないのに、歩調はどんどん速くなっていく。

彼のことを何も知らない。それでも確かに向かい合い、隣り合って、重ねた時間がある。


現れるのは必ず夜。日付が変わったあと。身軽な格好。あたたかそうなモッズコート。首やポケットから垂れるイヤホン。きっと彼は毎回、徒歩でやって来ている。

電車もバスも運行していない時間帯に歩いて来れるということは、そう遠くない場所に住んでいるはずで。仮にここが馴染みのない場所だとして、夜に出歩くとすれば、私なら一度は行ったことのある場所へ行く。


つま先が痛い。あまり履かないパンプスのまま大股で歩いたりしたせいだとその痛みに気付いたのは、彼を見つけてからだった。

ほんの先週に私が座っていた公園のベンチに、今度は彼が座っている。フードを被っているものの、宙を仰いで、白い息を吐いて、そこに存在していた。

呼ぶ名前が身についていないせいもあったけど、まさか、本当にいるとは思わなくて。


「……あれ?」


彼が私に気付いて声を上げた瞬間、背を向けた。


「えっ、あれ、なんで!? 待って!」


ぴたりと足を止めた私の背に駆け寄る気配が、なんだかとてもむずがゆくって振り向けない。
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