夢見るきみへ、愛を込めて。
「妹のこと、泣かせちゃってさ」
「……、喧嘩?」
「うーん。喧嘩っていうか……さみしい思いをさせちゃってるから」
私を見ずに苦笑する彼はどこか気まずそうで、ここにはいない妹へ謝っているみたいだった。
「俺んち、シングルマザーなんだけど。母親があんまり家にいない人でさ。仲が悪いとかじゃなくて、無関心?っていうか。放任主義なところがあって。お金は置いとくから、自分のことは自分でやってって感じなのね」
「……そう」
「うん。俺は男だからいいんだけどさ。妹はたぶん、違くて」
それは女の子だからって言いたいようには聞こえなかった。性別の問題ではなく、年齢とか、経験の違いみたいなもの。彼は、自分が味わった気持ちを妹にも感じさせたくないと。そして、それはなかなか難しいと言っているように思えた。
「だから学校の行事とか、面談とか。俺が行ったりしてて。最近はウザいって言われるんだけど、俺もめげないっていうか。本心では喜んでるくせにとか思ったりしてて」
バカだよなあ、とこぼすように自嘲した彼はひと呼吸置いて、前を見据えた。あまりに強い眼差しで、そこに誰かいるのかと思ってしまうほど。
「母親代わりとか、父親代わりとか。そういう気持ちが全くないってわけじゃないんだけど、重要なのはそこじゃなくて、なんていうか」
「……」
「あいつには毎日、笑っててほしいんだよね」
柔らかくも硬くもない、本当に、心から願っているような表情に私がかけられる言葉などなかった。望まれようと望まれまいと、彼は毎回、何か言ってくれるのに。
「でもなかなかうまくいかないから、ちょっとへこんでました」
へらりと笑った彼の、深刻な話にはさせまいとするその言動が、深く胸に刺さった。
こんな感じ、なのか。話の筋は見えるのに、細かな部分は分からない感覚。踏み込もうにも、踏み込みづらい感覚。何か言わなきゃって思っても、うまい言葉が見つからない感覚。
私はどれだけの人に、こんな思いを繰り返しさせたのだろう。