夢見るきみへ、愛を込めて。

「同じ大学だからって理由で教育係にされたって言ったじゃーん! 大学では先輩なのに、気まずいは敬語使うべきか悩むはで本当にしんどかった」

「……そこも含めて店長が認めてくれたってことでしょう? お疲れさま」


「へへ。だといいけど。ありがと~」


嬉しそうに笑う翠を横目に、言葉がつかえないよう、こくりと唾を呑み込んだ。


「関城先輩って、どんな人?」

僅かな驚きを察した私は、悟られないように笑みを付け足す。

「物覚えとか。対人スキルとか。どんな感じなの?」

「あー……意外と問題はないかなあ。割とそつなくこなす感じ」


あくまで仕事のできる人なのか否かを装えば、翠は思い返すみたいに宙を仰いだ。


「ただ口は悪いからね。お客さん相手に笑顔で接客してるの見ると、私たちにもそれくらい愛想よくしろよ!って思うね」

「みんなには愛想よくないんだ」

「感じ悪いってことじゃないよ? なんて言うかなあ……思ってることそのまま口に出すんだよね。白黒はっきりつけないと気が済まないみたい」


確かに以前話したときも、夢で見た関城先輩も、うやむやにしようとする様子はなかった。


気が済まない、か。関城先輩が私に対して白黒はっきりさせたいことって、たぶん――…。


「灯はそういう人、苦手だよね?」


先に教室へ入っていた私は振り返る。直感的にこれは話の延長ではなく、確認だと思った。


「まあ、そう、かな」

「だよねえ! 悪い人じゃないんだけど、きっと灯は苦手だろうなあと思ってさ。けっこうグイグイ来るから、もし話すようなことがあってもあたしがあいだに入るから安心してねっ」

「うん」とだけ返した私の中では、猜疑心が膨らんでいた。


私と関城先輩を遠ざけたいのは明白だ。近づくなと前から言っていたようだし、驚くこともない。だけど関わらせたくないのは、私が親しい人を作りたがらず、かつ関城先輩みたいな人が苦手だからってわけじゃないのは、夢で知ってしまった。


断片的で、全貌は見えなくとも。関城先輩がはっきりさせたいのは、私が“アイツ”と会ったかどうか、のはず。それを翠が“今は”確認させたくないと止めている。


今じゃなきゃいいともとれるわけだから、私は黙ってその瞬間を待てばいいだけだ。


でも、関城先輩が折れたら? あの夢より先の未来で、ふたりの意見が合致したら? 考えずにいることも、おとなしく待つことも、私はできそうになかった。


わざわざ翠と関城先輩に探りを入れずとも、本人に聞けば喜んで教えてくれる。“アイツ”が私の予想通り、“彼”であれば。
< 129 / 135 >

この作品をシェア

pagetop