夢見るきみへ、愛を込めて。
「大丈夫? ほら、拭きなさいな」
夢を思い出そうとした私へ、不意に差し出されたハンカチ。思わず首を傾げると、ママは自分の頬を指した。
「えっ……! あ、あれ!?」
自分の頬に残っていた涙のあとを、慌てて拭う。
「よっぽど怖かったのね。それとも悲しい夢だったの?」
「……いえ。覚えてないです、なんとなくしか」
白い部屋に、ガラス細工。なびくカーテンも白かった。その向こう側に誰かが立って、何かを、仰ぎ見ていた。
あの人は……あの立ち姿は――…。
「灯ちゃん、今日はもう上がりね!」
「えっ?」
顔を上げるとママが壁時計を指差した。0時を過ぎていることに面食らい、自分がしでかしたことに血の気が引く。
10時に休憩に入って、そのままずっと寝ちゃったんだ……!
「すいません! 私そんなに熟睡してましたか!? 本当にごめんなさい! タイムカード……っあの、手書きで直しますので!」
「あら、いいじゃない。たまには可愛いスタッフを寝かせてあげる日があっても」
ママはあっけらかんと言って、そこで初めて自分にブランケットがかけられていたことに気付いた。
「……これ、ママが?」
「灯ちゃん、薄着よねえ。いくら寒くないからって、暖房も届かない部屋で眠ったら風邪引くわよ?」
言葉に詰まった私に、ママはふふっと笑みを漏らす。