夢見るきみへ、愛を込めて。

「大学が終わったら毎日のように真っ直ぐうちに来て、深夜まで働いて、家に帰ってからも課題やらなんやらしてるんでしょう? 立派だし、アタシとしては助かるけど、休息をサボッてはダメよ」


……起こさずにいてくれたんだ。

今日出勤しているのはママと私だけ。もうひとりのバイトとチーママがいれば週末は事足りる小さな店だけど、ママを慕うお客さんはたくさんいて、ひとりで回すのは大変なのに。


もう一度謝っても、きっとママは『アタシがお客さんを独り占めする日があってもいいのよ』なんて笑うのだろう。


「さ、帰り仕度して、タイムカード押してきなさい。ただし、明日はお休みしてもらうわよ」


そこは普通、明日はたんまり働いてもらう、だと思うのだけれど。頬をつまんできたママの微笑みに「はい」と返事をするのが精一杯だった。


優しくされると、嬉しくなる。あたたかさを感じる。


それなのに胸が痛んで、素直に受け入れられない自分がいる。生まれつきな気もするし、後天的な気もする。どちらにしたって月日を重ねるたび、痛みが増していってるのは確かだった。


私にとって優しさは、特別なものだから。


向けられる優しさは、あたたかい。だけど溜め込んだあたたかさは、余計に冷たさを感じる毒にもなる。


ぬくもりがある幸せを知ってしまったのに、ぬくもりを失う辛さも知ってしまった。


特別は嫌い。特別な何かはもう、欲しくない。特別なものに、なりたくもない。


このままでいい。このままずっと、永遠に、冬が終わらなければいいと、何度願っただろう。


だけどちっぽけな私の願いは叶うことなく、毎年、毎年、季節は廻って春がきてしまうんだ。
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