夢見るきみへ、愛を込めて。
寝静まった街に響いた、甲高いブレーキ音。硬質なもの同士がぶつかったときとは違う、鈍い衝撃音。しん、となったあとに上がった、目が覚めるような悲鳴。
全てを背に硬直していた私は、恐る恐る、振り返る。走り去っていく1台の白い車が、真っ先に目に入った。
「は!? オイ待て! 轢き逃げって、マジかよ……っナンバー! ナンバー覚えたか!?」
「覚える暇もなかったべや! この辺って防犯カメラとかねえの!?」
「いいから早く救急車と警察呼べって! おい! 大丈夫か!?」
深夜の街は暗く閑散としているのに、男性3人が駆け寄った横断歩道の真ん中だけは、スポットライトが当たっているみたいにはっきり見えた。
慌ただしい様子を目に映すだけの私は、路肩で停まったミニバンから男女ふたりが手助けに現れても、動けない。
ドクン、ドクン、と波打つ心臓の音が鼓膜を支配する。
じわり、じわり、と拡がっていく誰かの血が道路を染めていくのを、見ていることしかできなかった。
司さんじゃ、ない……。顔は見えないけど、明るい髪色や服装からして、もっと若い。
男性、だろうか。横向きに道路へ倒れている人は、呼び掛けに反応していないようだった。
ひゅっ――と吸い込んだ息が、吐き出し口を見失う。震え始めた体から、温度がなくなるように思えた。
目の前の事故とは、別のものなのに。分かっているのに。何度も、何度も、脳内でリピートされるバイク事故の光景が、目の前の現実と重なって鮮明になっていく。