夢見るきみへ、愛を込めて。
ずるりと、引きずるようにして一歩下がった。
ごめんなさい。助けられなくて、ごめんなさい。
後退し続けた先でぶつかった電柱に、身を隠すようにしてしゃがみ込む。無理やりにでも呼吸を整え、まだ震える手で110番をして、事故があった場所と、逃げていった車のナンバーを告げて電話を切った。
やがて警察と救急車が到着し、搬送されていったようだけれど、私は目撃者として事情を聞かれる人たちに混じることはなく。ただ、ずっと、同じことを繰り返していた。
あの人は、助かりますように。命を救ってくれる人が、現れますように。
祈るようにかじかんだ両手を握り合わせ、電柱のそばで背を丸めていた。
どれくらいそうしていただろう。
いつの間にかみぞれが降っており、どこからか犬の鳴き声が聞こえ、全身の震えが止まらないことに気付き顔を上げると、周囲は仄明るくなっていた。
力の入らない脚で立ち上がる。横断歩道を覗き込めば、凍結した路面が鈍く光るだけで誰もいなかった。
夢か幻でも見たんだって、思えたらよかった。
鼻をツンとさせる朝の冷気や氷雨は涼やかとさえ感じるのに、胸にこごるものは重く、べたついていた。
路面にうっすら残るブレーキ痕と、赤黒くなった血痕に、横たわったまま動かない男性の面影を見る。
「――……いっくん」
そうだ。あの夢に出てきたのは、レースカーテンの向こうで窓の外を仰ぎ見ていたのは……ハルを愛した人。