夢見るきみへ、愛を込めて。
ぼんやりしたまま自宅の前で立ち止まると、鍵を取ろうとした手が宙を切った。バッグの外ポケットから出ているべきはずのキーホルダーがない。
「嘘でしょ……」
いつから無かった? 落としたのだとしたら、最悪だ。捜しものは昔から得意じゃない。
仕方なく、インターホンを押してから戸口を叩いた。誰かと聞くこともなく戸口を開けたのはお父さんだった。
「遅かったな」
「うん」とショートブーツを脱いだ私を、お父さんは呼び止める。
「少し話せるか」
話? 朝帰りしたことへの説教、じゃないだろうけど。嫌だな。なんだろう。
「先に着替えてくる」
すぐについていくことはせず、自分の部屋へ入った。視界にベッドが現れた途端、倒れ込みたくなるのをぐっと堪える。
気持ち悪い。今日はもう横になりたい。
今日じゃなくても横になってきたから、お父さんもそろそろ我慢の限界がきたんだろうけど、姿見を覗き込んだ自分の顔はどう見ても覇気がなく、青白い。
「ダメだ……」
あの交差点で起きた事故のことが、どうしたってちらつく。集まっていた人たちの見目形や慌ただしい光景はうろ覚えになってきているのに。数時間前の事故とは無関係の記憶が引きずり出され、補正されていく。
ぎゅっと、ふくよかさのない体を抱きしめる。震えが止まらなかった。
大丈夫。関係ない。あの人は、きっと助かる。心配ない。
芯まで冷え切った体に意識を集中させると、ようやく吐息が漏れた。