夢見るきみへ、愛を込めて。
着替えを終えリビングに入れば、ソファーに座っていたお父さんが腰を上げた。小百合さんとユリカもいるから、心持ち距離をあけて話したいのかもしれない。
「灯。さっそくで悪いんだが、もう出なくちゃいけない」
「……、うん?」
「前々から言っていた引っ越しの件。……今日だよ」
「あ、そう、だっけ」
言ってから、しくじったと目を逸らす。注がれた視線が責めているように感じた。
「なかなか会えなくなるが、学費や生活のことは心配しなくていい。……まあ、灯は自分でどうにでもできるだろうけどな」
お父さんの足元には、ボストンバックが置いてあった。その奥にはキャリーケースもあったけれど、逆光になってどれもよく見えない。
バルコニーへ繋がる窓から差し込む朝日がフローリングまで照らしていて、まぶしかった。
「なかなか都合が合わなくて、当日になったけど……こうして顔を見て話せてよかったよ」
そう言われては目を合わせないわけにはいかず、「そうだね」と顔を上げる。
無理やり頬をゆるめたお父さんのそれは苦笑としか思えなかった。
うしろにいる小百合さんはどんな表情をすればいいのか分からないようだったし、その腕に抱かれるユリカも空気を察してか、居心地悪そうな顔をしているように見えた。
仕方ない。私たちは、家族になれなかった。
「……おまえは変わらないな」