夢見るきみへ、愛を込めて。
ハル
何がきっかけだったのか。何が悪かったのか。今となっては分からなくなってしまった。
確かなのは、高尚で敬われていた血筋が、私の誕生で畏怖され、疎まれ、穢されてしまったのだということ。
始めは、思い出すこともできないほど些細な事だったように思う。その日の天気とか、献立とか。会話の流れや、着ている服とか。
夢を夢と思わず、ただ見覚えがある程度の現実に、はしゃいでいた。それが普通のことではないと、私も、周囲も、感じ始めたのはいつ頃からだろう。
七五三のためにと両親が晴れ着の色に悩んでいたから、淡い水色のほうが好きと伝えた。使用人が子どもたち用にと予約してまで買っていた和菓子を隠していたから、今すぐ食べたいと伝えた。
祖母が眠る前に眺めるアルバムの存在も、大事に育てていた朝顔が枯れてしまうことも、楽しみにしていた雪が降らないことも、知っていた。
周囲が不思議がる気持ちはいつしか疑念に。予想は現実に。もともと病弱だった母が倒れ、床に伏せるようになることを、私は半年前から不安がり、泣いていた。
おそらくそれが決定打になった。
特技でも才能でもない、奇妙な力。私が未来を視る子供であることを喜んでくれたのは、いっくんだけだった。
「……、」
リビングの窓辺でしとしと降り始めた雨を眺めていれば、携帯の通知音が短く鳴った。
とっくに講義が始まっている時間だと気付いたのに、体は空気が抜けたみたいにへろへろとしか動かない。
冷めきったマグカップを床に置き、ソファーに投げっぱなしの携帯に手を伸ばす。やっぱり翠からだ。まさかの休講の知らせで、あらぬ疑いをかけられているけれど。
「……たまたまだよ」
苦笑がこぼれる。見当たらない私にふてくされる翠の姿を思い浮かべながら、今から行くとだけ返信を打った。