夢見るきみへ、愛を込めて。
1時間あるバイトの休憩時間の半分は、よく睡眠に使っている。
横になっていた体をソファーから剥がし、ぼうっとローテーブルに置いてある時計を見つめていると、
「――…ちゃん? めずらしいわね~! すぐ戻ってきますから、そこ、お掛けになって」
ふふふ、とママの高い笑声がホールから聞こえてきた。カウンターの真横にスタッフルームがあるから、割と声は筒抜けだったりする。
スタッフルームと言っても、倉庫と化しているとも言えるし、軽食を作るためにキッチンもあるから雑居部屋って感じだけれど、トイレと浴室があれば立派なワンルームだ。
「あら。今日もお早いお目覚めですこと」
マグボトルで水分補給していると、ホールに続くほうのドアから今日も美しく着飾ったママが入ってきた。
「混んできましたか? 戻ります」
「ああ、まだいいわよ。でもメイクは直してちょうだいね」
後ろ手でドアを閉めたママは煙草を取りに来たようで、部屋同様に雑多している棚へ向かう。
「灯ちゃんご指名のお客さまが来たわよ」
「……、はい?」
「あははっ! そのなんとも言えない顔!」
そりゃ、不審にも思いますよ。
お客さんはママかチーママに会いに来るのが定石で、指名制なんて存在しない。加えて私はグラス片手にお客さんと楽しくおしゃべりするようなタイプではない。
「本当よ? 灯さんは出勤されてますか、って。ずいぶん丁寧な方だったけど、一見さんねえ。見たことないもの」
「うちって一見さん入れましたっけ」
「失礼。あたし面食いなの」
一見さんお断りの方針が曖昧だったのは、そんな理由のせいだったとは。過去お断りされた人たちがあまりに不憫すぎる。
40を過ぎているとは思えないほど綺麗なママは、軽くメイクを直す私を見てか、ふふっと笑った。