夢見るきみへ、愛を込めて。
「灯ちゃん、たまに息をのむほど大人びた表情するものねえ。仕草もだけど、育ちがいいのが分かるわ。カウンターに立つ姿が好きってお客さま、結構いらっしゃるのよ。緊張して馬鹿できないんですって。ふふ、おかしいわよね」
「……人気者のママに持ち上げられても、何も出ませんよ?」
「あら残念。ま、色恋沙汰って感じじゃないのは分かったわ。お客さま、カウンターに座ってもらってるからね」
私の反応を見て安心したらしいママはホールへ戻っていく。
私がいるか確認するなんて、誰だろう。ひとりで来店したお客さんは大概カウンター席で私が応対するけど、別段親しい方はいない。
身支度を終え、タイムカードを押してからカウンターに赴く。
もしママが、丁寧な方ではなく落ち着いた紳士などと言ってくれれば、今頃こんなにも動揺することはなかった。
「こんばんは、灯ちゃん」
この場にそぐわない司さんが微笑むと、カウンターのアロマキャンドルがゆらりと炎をローリングさせた。
「……こんばんは。まさかいらっしゃるとは思いませんでした」
バイト先にまで押しかけてくるなんて、と伝えたつもりだった。裏を返せば、そうまでして私と話したかったということ。こんな大衆居酒屋に囲まれた場末のバーに来るような人じゃないのだから、よっぽどだ。
迷惑なことに変わりはないけれど、ママや他のお客さんがいることを歯牙にもかけない私ではなかった。司さんもそう考えたから、バイト先にまで来たんだろう。