夢見るきみへ、愛を込めて。

「予想以上に驚かないね」

「充分驚きましたよ。何かつままれますか。うちは基本ママの手作りですけど」

「ああ、じゃあ、いただこうかな」


大豆と小口切にされた昆布とこんにゃくと人参の煮物を出し、司さんが手をつけた隙に、グラスの水滴を拭い焼酎割を作ってコースターへ置いた。


「手際がいいね。これも美味しいよ」

「ありがとうございます。私もその煮物好きで、作り方を教わりました」

「そう……懐かしい味がするもんな」


目を伏せた司さんの顔に睫毛の影が映り、グラスからはカラン、とアイスが音を立てた。


その顔で、申し訳なさそうにしないでほしい。


向いてないよ。人の気持ちを慮る司さんに、躊躇なく"私"を使える器量はない。


「なぁにぃ~? シーンとしちゃって! お酒がまずくなるじゃないのっ」


突然、ボックス席で常連さんについていたママが煙草片手にやってきた。


「まっ、灯ちゃんは馬鹿騒ぎするようなタイプじゃないけど。カウンターだけ慎ましいっていうかねえ、物静かな空気になるのがもう、おかしくって!」

「ママ……酔ったんですか?」

「んなわけないでしょう。和ませようと思ったのよ。それで? この方は灯ちゃんとはどういうご関係?」

「……どう、と言われましても」

「僕は伯父です。灯の母の、兄になります」


目をまん丸くさせたママの心中は察する。司さんはママと同じで30過ぎに見えるけど、40は越えているのだ。


「へえ……そうなの。あらあら、予想外だったわ。姪の働く姿を見に来るなんて、ずいぶん仲がよろしいのね」


赤いルージュの隙間に煙草を挟んだママの微笑は、私の口を勝手に動かす力を持っていた。
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