夢見るきみへ、愛を込めて。
「一杯飲んだら帰るそうです」
「あら残念。でも気が向いたらまたいらしてくださいね。お客さま、とっても綺麗な顔してらっしゃるもの。眼福ってやつね~」
「ママッ。煙草の灰、落とさないでくださいよ?」
「灯ちゃんに怒られちゃった~っ!」とママは元気に灰を落としながら、お客さんが待つボックス席へ戻っていく。
誰が掃除すると思っているんだろうか。私はくすりと笑って、伝票を準備する。
「ここで働くのは、楽しい?」
私の身勝手で帰らなければいけなくなったのに、司さんは怒ることもせずに尋ねてくる。だからつい、
「楽しいですよ。今も、前も。以前は古着屋でバイトしてたんです」
言わなくてもいいことを話してしまった。私を調べたのなら、知っているだろうけど。
「よかった」
そう、本当に安心したような穏やかな笑みを見せられたら、私の心臓はねじれて、どうしようもない痛みに襲われてしまった。
「終わるの、待っててもいいかな」
結局追い出す形になったのだから会計は私が持つという提案を断られたあと、見送りのため店の外に出たら、司さんは不安を隠さない顔で言う。
「このままじゃ帰れない」
たくさんの想いを凝縮して、ひとつにした言葉がそれなのだと感じた。
優しい伯父さんといえど、食い下がるだけの牙を持っていることくらい分かる。
普段は隠れているだけで、ときに恐ろしくなるほどの熱情を持つ人だっている。司さんの長子――いっくんみたいに。
「……話だけなら、聞くだけ聞きます」
ぎゅっと二の腕を握り締める私とは違い、司さんは一瞬泣きそうな顔を見せ、頭を下げた。
「ありがとう」
「1時前にはあがれると思うので、」
「うん。帰りは送っていくよ。ビルの前にタクシーを呼んでおくから」