夢見るきみへ、愛を込めて。
「……忘れてないよ」
俯く私の視界に、一歩近付いてきた司さんの皮靴が映り込む。
「自分の息子を忘れたことなんてない。だから会いに来たんだ。灯の負担になろうと、灯を傷付けることになっても、言うよ」
どんな言葉が投げ掛けられるか、予想はついていた。
「娘まで失いたくない」
いっくんを助けられなかった代わりに、今度こそ必ず助けてみろと言われているようなものだった。
彼にそんな気は毛頭なくても、まるで用意された罪滅ぼしのよう。
そんなことで赦されるくらいなら、もがき苦しみながら生きたほうがマシだと思った。
逢いたいと、毎夜願って眠りにつく。夢の中でさえ逢えなかったと嘆く朝がくる。
そうやって毎日、これからも、いっくんを忘れずにいられるのなら、私は赦しなど請わない。憎まれようと哀れまれようと、私は死ぬまで、いっくんだけを想い続ける。
「受け取ってくれ」
差し出された数枚の写真が目に映り、激情にかられた。
「どんな些細なことでもいい。何か見たら、」
「そんな都合よく使えるものじゃないんだってば!」
思い切り司さんの手を払いのける。宙に投げ出された写真が、ひらりひらりと雪に混じって落ちていく様に、胸がつかえた。
「見たいと思って見られるものじゃない。毎日見てるわけじゃない。私の意思なんて関係ないっ。法則なんてひとつもない!」
「それでもっ、」
「諦めきれないくらい娘が大事なら、私なんかに生死を問わないで自分で決めてよ!!」
吐き捨てるように放った本心は、街の一角に異様なほどの静けさを連れてきた。
降り頻る雪は私たちに容赦なく。刺すような風と沈黙は体の芯ごと凍らせるようで。