夢見るきみへ、愛を込めて。
眠りたい。と思ったときだった。驚くほどの速さで通り過ぎた石ころほどの雪玉が、司さんのこめかみで砕け散った。それは二投三投と続き、
「なんだっ!?」
腕で頭をガードする司さんの前に慌てて立ちはだかり、雪玉が飛んできた方角に目をやった。
「誰!? やめて!」
四投目の雪玉が山なりに落ちてきて、足元で砕け散る。
コンクリートの外壁の向こう側にそびえる大きな常緑樹に目を凝らせば、人影が見えた。
木に登っている意味も、雪玉を投げてくる意味も分からないけれど、もう止める必要はなさそうだった。
「大丈夫ですか?」
「ああ……いや。なんとも、ないよ」
近距離でかちあった目を逸らされ、無意識に司さんのコートを払っていた手を引っ込めた。
やっぱり父親だ。いっくんと似てる。
唐突に訪れた気まずさに言葉を沈めていても仕方ない。私はぺこりと頭を下げてから、さほど時間を要さない帰路につくはずだった。
「灯」
同じように立ち去ろうとしていた司さんは振り返った私を見つめ、その瞳を揺らめかせる。
「生死の有無だけでも見てもらえたらと思って会いに来たわけじゃないんだ。本当に。そんな、酷なこと……。ただ、無事を願うだけしかできない毎日に、耐えられなくて……大人げないことをしたね」
「……」
「きっと、もう、立ち直ってくれているはずだと……いや、よそう。次は姪に会いにきただけの伯父でいるから。……身体を大事にな」
司さんは微笑むと、取り出していた携帯を耳に当て、コートの裾をなびかせながら横断歩道を渡っていった。