夢見るきみへ、愛を込めて。
名も無き関係
「さっきはごめんね」
笑顔を消した彼は眉を下げ、私が身じろぐと、投げる素振りをされた。
「ああ……。いえ、私には当たってないので」
謝りたくて声をかけてきたのだろうか。でもどうして雪玉なんか。
「誰かが言い争ってるなーと思って見に来たら、ただならぬ雰囲気だったから。ガキが痴情のもつれに首突っ込んでも、とは思ったんだけど」
「いやあのっ、痴情のもつれとかでは全く……!」
「あ、そうなの? なんだ、よかった」
よかった? まあ、誤解を解けたことに関してはよかったとも言えるけれど。
「余計なお世話じゃなかった?」
「えっ? と、はい……結果的には、助かったのかな、と。すみません、まだ少し混乱してて……。あの、口論が聞こえたって、どのあたりから」
「そのあたり」彼はゴミ捨て場を指差す。
「ぼんやりしてたら、心配になるくらいには響いてきたから……あ、内容のこと? 聞こえてないよ」
ほら、と。彼は鏡を覗き込む女子のように、首に垂らしていたイヤホンを耳たぶに翳した。
聞こえていなかったことに、彼と遭遇してから初めて胸を撫で下ろす。まさか他に人がいるなんて思いもしなかった浅はかな用心を、改めないと。
18歳くらい、だろうか。高校生にも見えるし、かろうじて大学生にも見える。
こんな時間に出歩く理由ってバイト以外なんだろう。ぼんやりしてたってことは遊んでいたわけじゃないだろうし。帰宅途中って感じも、しないでもないけれど。私の知る限り、男の人は荷物が少なすぎてどこへ外出する気だったのか見当もつけられない。
そこまで考えて出した答えは、聞いたところでどうなるというわけでもなければ、別段興味もないということだった。