夢見るきみへ、愛を込めて。

「おかえりー」


締まらない笑みを浮かべたストーカーから目を逸らす。

無視だ、無視。

まさに避けては通れない道を進み、私の帰宅に気付いたストーカーは立ち上がったけれど、話すことなんてないからそのまま通り過ぎた。


つけまわすのをやめてほしいと言ったところで通じる相手か分からないし、調子づかせたくもない。無視したことで悪い方向にいくかもしれないって不安があるにはあったけど、関わらないのが一番だと結論付けた。


自動ドアが閉まり、郵便物を取るまで張っていた胸の奥がだんだんと弛緩していく。どうして私がこんな思いをしなくちゃいけないんだろう。


そろりと明るすぎるほど照らされた自動ドアの向こう側をうかがうと、追ってきてはいたのか、こちらに背を向けているストーカーがいた。


うなだれてる?

落ち込んでいるようにも見えるその背に、無視することはなかったかと罪悪感に駆られそうになり、振り切るようにエレベーターへ乗り込んだ。


これでいい。間違ってない。関わるべきじゃ、ない。


壁にもたれるとゴン、と音がして、見ればコンビニで買ったりんごの入る袋が手首からずり落ちそうになっていた。それを引っかけ直しながら、脳裏から離れていかないストーカーの姿に眉を寄せる。


予感はあったんだ。いるかもしれないって、予感は。

だからいつもと違う帰り道を選んだ。交差点の横断歩道を通ってすぐの、背の高い常緑樹が伸びる曲がり角ではなく。マンションの裏手をぐるりと回ってゴミ捨て場のそばに出る道で、先に姿を確認できるように。


いったい何がしたいんだろう、あの人。
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