夢見るきみへ、愛を込めて。
午後6時前、講義が終わった瞬間に大学を飛び出した私と翠は、無事に電車へ乗り込んだ。その頃には私たちが暮らす区域一帯に大雨暴風警報が出されていた。
「いやーギリギリセーフッ! 危うく帰れないところだったね! 傘も意味なかったし、次の電車が運転見合わせかな?」
「……たぶん、次の次だと思うよ」
「たぶん、たぶんって。いつも百発百中でしょうが」
濡れてしまった髪を耳にかける翠は、叱るように言う。
私は強風で1本だけ折れてしまった傘の骨をなんとか直そうとする。叶いそうもないけれど、翠の目を見ながら話すのは気が引けた。
「灯の直感って本当すごいよね。まさに超直感って感じ。その恩恵にあやかれるあたしは幸せ者です」
「恩恵ってそんな……大袈裟だよ」
「大袈裟なもんか。あたしはあの日、灯が来てくれなかったらここにいないんだからねっ」
「それが大袈裟なんだってば。あれはたまたまで」
「ハイハイ、わかりました」なんて笑い流す翠は、鼻歌まで歌い出す。
直感なんて、そんないいものじゃないのに。
翠がそれと信じて疑わない理由はいくらもあるようだけど、"あの日"が最も大きいってことは何度も聞かされて分かっている。
中学3年生の冬だった。ひと足先に別の高校へ推薦入学が決まっていた私は、翠の受験当日の朝、駅まで走っていた。
ちらほらと雪が降る中、数日分の積もった雪に足がとられて、なかなか前に進めなかったのを覚えている。