夢見るきみへ、愛を込めて。
こっちは突き放そうと、切り捨てようとしているんだから、同じように見限って、立ち去ってよ。
私は危害を加えられたわけじゃないし、テレビで取り上げられるようなストーカー行為を受けているわけじゃない。高校生か大学生かも知らないこの人を、待ち伏せされただけで警察に突き出そうなんて考えたこともなかった。
だけどこんなのは、優しさじゃない。
――『……おまえは変わらないな』
ただ、私が。私だけが、新しいものを受け入れられずにいるせい。
ぎゅっと握りしめた腕に爪が食い込み、眉をひそめる。
「興味がないんです、本当に……あなたに何をされても、言われても、響かない」
反応はしても、スポイト一滴分の波紋が拡がる程度。
「あなたに限ったことじゃ、ありません。父にも、伯父にも、その家族にも……友達にだって。何か望まれても、応えられない。応えたく、ないんです」
私の生き方を。たったひとりを想って生まれた私の世界を。何人にも干渉されたくなくて。
3年前からずっと、変わることを拒んできた。少しでも変わらずに済む道を選んできた。環境も、交流も、見た目も、心も。
そうすれば、いっくんのいなくなった世界でも、生きていけると思った。
だけど――。
「つらそうだ」
雪混じりの風に乗って、気遣うような声音が届く。
つらそう。耳を通りすぎたはずの言葉が、ずしりと重みを携えて胸の奥に沈んだ。
「きみが何かを望まれて、応えたいと思うのは、世界でたったひとりの、逢いたい人?」
「……そう、です」
いつの間にか落としていた視線を、彼に戻す。
私の胸はなぜだかとても潰されたみたいに苦しいのに、彼は眉を下げて微笑んでいた。
「それが、申し訳なくてたまらないって顔してる」
いけない。
反射的に顔を背けた私の中で、拒絶と戸惑いがせめぎ合う。この人は、ダメだ。関わっちゃいけない。自称ストーカーだとか以前に、もっとべつの、何かがある。
なんだろう。知りたくないのに拒みきれない。どうしてだろう。彼の表情を、言葉を、流せずに留めてしまうのは。