夢見るきみへ、愛を込めて。
「ねえ」
彼を見た。名前も知らない男の子の顔を。
「俺はさ、きみに憶えていてもらえたことも、声をかけてもらえたことも、すごく嬉しかったんだ。もっと早く、こうしていればよかったって思うくらい」
哀しそうに笑う彼から感じられたのは、後悔だった。
どうしてそんな風に笑うのだろう。もっと早く出逢いたかったとも取れる台詞と、表情の差に違和感が残る。言った通りの意味ならば、もっと嬉しそうに笑うべきじゃないんだろうか。
「こんなこと言っても、困らせるだけなんだろうけど」
……そうか。私が、そんな顔をさせているんだ。私が、拒絶してばかりだから。
「今日で、終わりにしてくれますか」
伏せられていた瞼がゆっくりと持ち上がり、私を見つめる瞳は揺らいでいる。
責めるような、すがるような色を滲ませた瞳に、お父さんや司さんを思い出した。
「困らせると分かってるなら、これきりにしてください」
何度、こんな風に人を突き放してきたんだろう。あと何回、人の気持ちを踏みにじればいいんだろう。
誰のことも、嫌いじゃないのに。傷付けたいわけじゃないのに。
いっくんを忘れたくない。いっくんに逢いたい。いっくんの夢だけを見たい。それだけでいいのに。望めば望むだけ傷付いて、傷付けてしまう。
「だけど俺、決めたんだ」
「……、」
「きみを困らせることになっても、変わろうって。無視されても嫌われても、声をかけようって。だから、逢いに来るのはやめられない」
立ち上がり、私と向き合った彼を見つめているはずなのに、頭に入ってこない。代わりにどんどんいろんな感情が溢れ出て、あまりに目まぐるしくて、どれがどんな感情なのかさえ分からないまま生まれては消えていく。
それが猛烈にさみしいと思った。
自分の感情なのに、拾い上げてあげられないことが。どんな感情が浮かんでも、思い焦がれてしまうのはただひとりであることが。
私はもう、どうしようもない。