夢見るきみへ、愛を込めて。
「……帰って」
見られたくなかった。聞かれたくなかった。わずかもこぼしていないのに、背けた顔を手の甲で隠した。
「二度と来ないで」
考えてみれば同じじゃない。数えられる程度には好意を寄せられた経験がある。躱せるときは躱して、答えを求められれば真面目に返事をしてきた。
どうして同じようにできなかったんだろう。受けたことのない方向からアプローチをかけられたせいだ。正真正銘のストーカーだろうが、ぶっているだけだろうが、善良なひとりの人間だろうが、私の世界にこの人は必要ない。いらないんだ。
「……帰れない」
「帰ってってば!」
叫ぶように言い放ち、唇を噛んだ。
考えてみれば、なんて嘘。結論を急いだだけ。彼を突き放す理由を正当化するための、その場しのぎのこじつけでしかない。
「ごめん……怒らせるつもりはなくて」
謝らないでよ。怒ってなんかいない。
さみしいなんて久しく感じていなかったものが急に息を吹き返したから、わけがわからなくて、蓋をして、いらないと切り捨てたいだけなんだ。それがうまくいかないのをあなたのせいにして、苛立って見えるのかもしれないけれど。
「ごめん」
「――っだから、どうしてあなたが謝るの!?」
やめてよ。早く背を向けてよ。私はどうしようもないって、呆れて見限って離れるのが普通でしょう。
強く奥歯を噛み締めながら、バカみたいだと思った。お父さんや司さんならともかく、こんな、ほとんど初対面同然の人に何を喚き散らしているんだろうって。
だけど止まりそうにない。彼も立ち去ろうとしない。きっとまた眉を下げて私を見つめている。何度突き放しても、冷たい言葉を浴びせても、ずっとそこに。
「どうでもいいって、関わりたくないって言われて、なんで……っ悪いのは私なんだから、怒るならあなたのほうでしょ!」
それだけのことをしている。
ただひとりを想う自分でいられるなら、お父さんが望んだ家族の再生も、娘を探してほしい司さんの願いも切り捨てて。相手の気持ちを察しながら見て見ぬふりをして、私はここにいる。