夢見るきみへ、愛を込めて。
「今さら、何もかも手遅れだと思ってる?」
「……、」
「まるでこれからの人生、全部決まってるみたいな言い方だ」
少し怒気を帯びたような声に、視界を上へと広げた。思った通りと言うべきか、彼は喜びも哀しみも消した顔で私を見つめている。どこか真剣なその表情に、喉の奥が震えた。
「決まってるんだよ……」
「そんなの分からない」
どうしてそんな風に言い切れるのか、分からない。
知らないでしょう。私はきっといつの日か、あなたの未来を覗き見る。それがどんなに気持ち悪いか。変えられない未来がどんなに残酷か。どれだけ私を苦しめるか。そんなの、人と距離を置く他ないじゃない。
私は未来を夢に見ますって伝えたところで、睡眠がトリガーなだけの規則性もないこんな力、あってないようなものなんだから。頭がおかしいって思われるのがオチで。たったひとりの親友にだって打ち明けられなくて。家族にさえ頼れないまま。
誰よりも私を赦し、誰よりも幸せを与えてくれたいっくんの面影だけを胸に、今日まで生きてきたような、自分。
それでどうして、未来は決まってないと思えるだろう。
「きみは、変わることが怖いの?」
真っ直ぐな瞳とためらいのない言葉に、胸の奥を柔く叩かれた気がした。なんだかそれがとても、嫌で。拒絶、したくて。口にするより先に、首を振っていた。
「違う……。言ったでしょ。関わりたくないって。それは変えないでほしいって意味なの。変わりたくないんだよ、私は」
「そっか。あるよね、環境が変わることへの不安みたいなやつ」
「そういうのじゃ、なくて」
「うん。分かってる。きみのこと少ししか知らないし。もちろん今まで何があったかなんて詳しく知らないから、きみの言うとおり未来は決まっていて、俺は何も変えられないのかもしれない。でもさ、人生何が起こるか分からないって、思ったことない?」
問いかけるように首を傾げられ、答えてはいけないと口を噤む。だって、答えは目の前でふわりと笑ってみせたから。
「俺がそれだよ。きみの人生の、転機」