夢見るきみへ、愛を込めて。
まるで花吹雪。大きな雪片が風に遊ばれ散っていく様は、遠い昔を思い出させた。そして記憶とは異なる目の前の人物は、私を現実に引き戻す。
……変わっていく。
私はこんなにも頑なに動こうとしないのに。望んでいなくたって、街も人も風景も変わっていってしまう。
「何を、言ってるの」
自分を転機だなんて馬鹿げている。随分な自信家だと一蹴すればよかったものを、記憶が上書きされた感覚に戸惑って、生半可な返事しかできなかった。
「まあ、そうなりたいってのが本音。けっこう難しそうだ」
しばらく夜空を仰いだ彼は、頬に雪が落ちると流れるように私へ視線を向けた。
「でも逢いに来るよ。明日もあさっても、迷惑そうな顔をされてもね」
ふふんと得意げに笑う彼に返す言葉は、探しても探しても見当たらなかった。
なんだろう、これ……。
「ううん……まさかの無反応」
あんなに喚き散らしておいて、胸の中が静か過ぎる。
「ていうか、前にも言ったけど、そんなに見つめられるとさ……緊張、っていうか恥ずかしくなってくるから」
やめてと言わんばかりに右腕で私の視線を遮断した彼は数秒経ったあと、もう一度目を合わせてくる。頬が少しだけ赤くなっていた。
「……私に見つめられて、怖くないの」
やっと出た声はとても小さかったのに、彼は少しだけ驚いたあと、首をひねった。
「見ていられるなら、ずっと見ていたいけど」
「あなたが見るんじゃなくて」
「言いたかっただけだよ。きみに見つめられるって? どうぞ、心置きなく見つめてください」
いや、今に限った話じゃないんだけど……変なことを聞いてしまった。
どうしようと、どうすることもできずに見つめていれば、
「やっぱだめだ。恥ずかしい」
口元を押さえた彼は目を逸らした。だけど数秒経てば、また私を見る。視線を外して戻すを繰り返す様は、まるで――。
ぱっと下を向いた。彼が私に寄せる想いそのものを、はっきりと言葉にしてぶつけてくれたなら、またちがう反応ができたのかもしれないけれど。
告白されたところで、彼を好きになったりはしない。