夢見るきみへ、愛を込めて。
「なんか、落ち着いたね」
鼻先をこすっていた彼が口元を緩ませる。私はうまく呑み込めず、眉をひそめた。
「苦しそうじゃないっていうか。言いたいこと言って、すっきりしたって顔してる」
してないと否定したかった。
けれど言われてみれば、この胸の静けさは苦しさの中では生まれない気がした。
「俺もあるよ。そういうこと。支離滅裂なこと言ってるなあって思いながら止まんなくて。でも言いながら、こんなこと思ってたのかって。言ったあと、気持ちが整理されるっていうかさ」
なんだろう……変な感じがする。私は言いたいことを言ったら、それで満足なんだろうか。これだけ言っても引かないんだからしょうがないって、諦めがついたんだろうか。
そんなわけ、ないのに。
「きみもそうだといいな」
見守るように柔らかく笑う彼を、これ以上突き放すのは気が引けた。
知りたくないのに拒みきれない。彼の表情を、言葉を、流せずに留めてしまう。その理由が、ようやく明るみに出た気がする。
見当違いかもしれない。願望が混じっているかもしれない。それでも思ってしまう。
彼は他人に寄り添うことを、ためらわない。
「……変な人」
「え? 今、変な人って言った?」
「自覚ないんですか」
「あるけどね。ストーカーだしね。でも今日はいっぱい話せたから、気にしないことにするよ」
口はつぐまなかった。
そうして自称ストーカーは両手をコートのポケットへ突っ込み、「ねえ」と。私が背負うのはエントランスの明かりくらいなものなのに、眩しそうに目を細めた。