夢見るきみへ、愛を込めて。
ふっと持ち上がった瞼を再び閉じる。何度か瞬きをして、重い瞼をこすりそうになった手を寸でのところで震える携帯へやった。
23時半。休憩時間まるっと寝てしまった。
ブランケットを引き寄せながら体をソファーから引き剥がす。普段の多くは賑やかな声で満たされるドアの向こう側へ赴くと、ママがカウンター席に座っていた。
「やだ、灯ちゃん。お客様がいないからってそんな寝惚けた顔で戻るなんて」
柔らかに笑うママのそばにのろのろと近寄る。乱れているであろう髪に手櫛を通す私に「メイクも直してきなさいな」と言うママの手元を覗き見る。思った通り、いつもは私が記入している発注書だった。
「灯ちゃん?」
「アロマキャンドル、20ダースもいります?」
「えっ? ……あら? キャンドルっていつも箱買いだった?」
「20個欲しいなら、そこは2で十分です。240個も届いちゃいますよ」
「やだ、本当!? ありがとう~灯ちゃん。やあね、私ったら。歳かしら」
快活に笑うママは問題の部分を書き直し、私はそれを確認してからメイクを直してくるとスタッフルームへ戻った。
こんな直前の、はっきりと覚えている夢、久しぶりに見たな。
鏡を覗き込む前に、壁に掛かるどこぞのタクシー会社の名前が入ったカレンダーを見遣る。
『間違えて注文しちゃったのよ~!』
売り上げの計算など退店業務をしていたママが慌てて電話をかけていた。その手に持たれていた発注書の記入日は今日。夢の中では日付が変わって明日の出来事だった。
恐らくそのあと、業者に確認をとって訂正できたとは思うけれど。目が覚めてしまったから、分からない。
だけど私が指摘しなくたって、アロマキャンドルが240個も届く未来は訪れなかったと思う。
翠の受験日のことだって、私は財布を忘れてしまった彼女を夢で見ただけだ。私が急いで家を飛び出さなくたって、きっと翠は恥なんか捨てて見知らぬ人にお金を借りてでも、ひとりでどうにかできた。そういう子だ。